ROCK STANDARD  065 JEFF BECK
ROCK STANDARDは、70年代を中心にロックに変革をもたらした名盤・迷盤を紹介しています
BLOW BY BLOW (1975)



  1. You Know What I Mean
    (Beck,Middleton)
  2. She's a Woman
    (J.lennon,P.McCartney)
  3. Constipated Duck
    (Beck)
  4. Air Blower
    (Beck,Chenn,Middleton,Bailey)
  5. Scatterbrain
    (Beck,Middlton)
  6. Cause We've Ended As Lovers
    (Stevie Wonder)
  7. Thelonius
    (Stevie Wonder)
  8. Freeway Jam
    (Middleton)
  9. Diamond Dust
    (Brian Holland)
  • JEFF BECK : GUITAR
  • PHIL CHENN : BASS
  • RICHARD BAILEY : DRUMS, PERCUSSION
  • MAX MIDDLETON : KEYBOARDS
PRODUCER : GEORGE MARTIN
 『クロスオーバー』は、もともとジャズ界からのロックへのアプローチが発端だったような記憶があります。とくに、マイルス・デイヴィスの『BITCHES BREW(1970)』。一年遅れくらいで聴いてタイムリーではなかったのですが、エレクトリックに拘り16ビートを基調にしたファンク色豊かなジャズ・ロックを展開したり、左右のチャンネルでピアノ、ドラムの演奏者が違ったりと新しい試みも素晴らしいのですが、参加しているミュージシャンが凄過ぎるのです。ウェザー・リポートを結成するウエイン・ショーター(sax)とジョー・ザビヌル(p)、リターン・トゥ・フォエヴァーを結成するチック・コリア、それに参加するレニー・ホワイト(dr)など、後にフュージョン界をリードする人材が揃っています。また、CD化に際し追加された「Feio」には、サンタナに参加し名盤を数多く生み出す原動力となったアイアート・モレイラ(percussion)やマハビシュヌ・オーケストラに参加するビリー・コブハムも参加しており活発な交流が垣間見えるところも面白いのです。

 とくに、この作品に参加し後にマハビシュヌ・オーケストラを結成することになりロック界とも積極的に交流することとなるジョン・マクラフリン(g)の活躍は、ジェフ・ベックに大きな影響を及ぼしたに違いありません。このことは、この作品発表後の1971年に第二期ジェフ・ベック・グループを結成し、今回ご紹介する『ギター殺人者の凱旋/BLOW BY BLOW』への布石ともいえるファンキーでジャジーな作品である『ROUGH AND READY(1971)』と『JEFF BECK GROUP(1972)』を続けて発表していることからも想像に難くありません。そして、リズム隊をティム・ボガートとカーマイン・アピスの元ヴァニラ・ファッジ組みに変更し、更なる発展を目指しますが、マックス・ミドルトンとボブ・テンチがハミングバード結成のために脱退してしまいます。そのため、ロックへの回帰を余儀無くされますが、本人の意志とは裏腹に原点回帰は好結果を生んでしまい、傑作といわれる『B.B.A.LIVE(1973)』が残されることになったのです。

 そして、同じ1973年にベックを刺激する作品が続けて発表されます。ひとつは、マハビシュヌ・オーケストラのセカンド・アルバム『火の鳥/BIRDS OF FIRE(1973)』でのJ.マクラフリンのプレイであり、ふたつはマハビシュヌ・オーケストラのドラマーであり『火の鳥』にも参加しているビリー・コブハムのソロ作品『SPECTRAM(1973)』における当時は無名だったロック・ギタリストのトミーボーリンのプレイだったのです。その結果、ジェフは、好評だったB.B.A.のセカンド・アルバムの製作途中でバンドを解散し、新たなバンドメンバーを探すことになるのです。

 名盤が創られるまでの前置きが長くなりましたが、ジェフの名盤作りには欠かせない条件の1つに敏腕プロデューサーとのコンビというのがあります。ジェフは、何かを与えてもらわないと動き出さない人みたいで(M.ミドルトン談)、何かのヒントをきっかけに素晴らしいプレイを見せてくれる人みたいです。本人自体が、作曲が苦手だと言っていることにも共通するのかな、と思ったりします。そのジェフが、叱ってくれる年上プロデューサーに今回選んだのは、5人目のビートルズとして有名なジョージ・マーティンでした。彼の優れた手腕は、この作品でも遺憾なく発揮され、美しさと柔らかさを加味することによりジェフの今までの印象を180度変えるのに成功しています。同じプロッデューサーによる次作の『WIRED』が攻撃的なのと対照的な点も面白いと思います。

 ヤードバーズ脱退後6枚目となるスタジオ作品は、上述した影響もあり、すべての曲がギター・インストゥルメンタルによる美しい作品になりました。アルバムは、ファンキーな作品で幕を開けます。ジェフのギターが非常にリラックスしているためかファンキーでありながら重厚さは感じられず軽快で心地良い作品に仕上がっています。マックス・ミドルトンのクラヴィネット(?)も最高です。続く2曲目は、レノン・マッカートニーのカヴァーです。ジェフのギターがヴォーカルのメロディ・ラインをなぞるように展開していきます。レゲエのリズムにジャジーな演奏を絡ませたり聴き応え充分の作品です。再びファンキーな3曲目は、M.ミドルトンのクラヴィネットが大活躍の作品です。ジェフのギターも非常にのびやかでリチャード・ベイリーもレニー・ホワイトばりのドラムを披露しています。さらにアップ・テンポでファンキーに展開する4曲目は、スリル満点の壮絶なバトルが楽しめる作品です。ただ一言「カッコイイ」。ジョン・マクラフリンの影響が垣間見える5曲目は、9/8拍子というハイ・テンポの作品で前曲にも劣らない素晴らしいテクニックが堪能できるアンサンブルです。ジェフのギターも様々な表情を見せてくれるため、ギター小僧が大満足する作品のひとつです。

 B面最初の曲は、敬愛するロイ・ブキャナンに捧げたスローなバラード作品で、当時はジェフの泣きのギターが大人気でした。邦題の「哀しみの恋人達」がぴったりの切なくも美しい作品です。しかし、ちょっとしたいわく付き曲でもあるのです。ジェフがBBA時代に「迷信」をカヴァーした際、スティーヴィー自身のヴァージョンが全米No.1になってしまったため申し訳なく思い罪滅ぼしの意味も込めてこの曲を書き下ろしてくれたという話もあります。7曲目は、重厚なキーボードとヴォイス・モジュレーター(?)が印象的なファンキーな作品です。8曲目は、リターン・トゥ・フォーエヴァー的なジャジーなアプローチが印象に残るクロスオーバーという名前にピッタリの作品です。最後の曲もジャジーな作品ですが、G.マーティンのオーケストラ・アレンジが加味され壮大な叙事詩のような感じに仕上がっています。また、M.ミドルトンのジャジーなセンスが光る作品でもあります。次作の『WIRED』のヤン・ハマーの硬質のキーボードと聴き比べるのも楽しいですよ。 

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