1971年は、華々しくロックが開花し始める年であるとともに、フィルモア・ウェストの閉鎖やドアーズのジム・モリソンの死などの事実が、ひとつの時代の終焉を告げるという一抹の寂しさを感じる年でもあります。それを払拭するかのようにツェッペリンやグランド・ファンク・レイルロードなどが来日し、国内のロックフェスに拍車をかけた年でもあります。
レッド・ツェッペリンの「天国への階段」を含むアルバムが爆発的なヒットを見せたように、ロック市場は世界的に拡大し、60年代に不遇の時代を送ったシンガー・ソング・ライターの代表エルトン・ジョンやグラム・ロックを確立したティラノザウルス・レックス改めT.REXなどが台頭してロックの細分化が進んだ年でもあります。
また、ジョージ・ハリスンの呼びかけでバングラデシュ難民救済コンサートが開催され、クラプトン、ボブ・ディラン、リンゴ・スターらが競演し、ロックが世界に対して重要なアッピールをした年でもあります。


1971年の歴史的・私的名盤


主な出来事

1月

ロッド・スチュワートの「マギー・メイ」がヒット、スター街道に乗る。

ウイッシュボーン・アッシュデビュー。

ビージーズが復活、日本でも『小さな恋のメロディー』の主題歌がヒット。


2月

クィーン結成。

3月

サイモン&ガーファンクルのアルバム『明日に架ける橋』がグラミー賞3部門獲得。新人賞は、カーペンターズ。

EL&Pが『展覧会の絵』を演奏。

T.レックスの「ホット・ラヴ」がヒット。グラム・ロックに火が点く。


4月

デヴィッド・ボウイ『世界を売った男』発表。

スリー・ドッグ・ナイトの「喜びの世界」がヒット。

映画『ウッドストック』公開

ローリング・ストーンズが、ローリング・ストーンズ・レコードを設立。


5月

ジェファーソン・エアプレインのヴォーカリスト、グレイス・スリックの交通事故によりグループ活動が一時停止。

後にショック・ロッカーと呼ばれる、アリス・クーパーがデビュー。

フリーが解散表明、再結成されるが73年に再び解散。

6月

キャロル・キングの『つづれおり』が大ヒット、シンガー・ソング・ライター・ブームが最高潮に。

7月

ジム・モリソン心不全のために死去。

T.REXの「ゲット・イット・オン」がヒット、グラム・ロックの台頭。

グランド・ファンク・レイルロード来日。


8月

ジョージ・ハリソンの提唱でバングラデシュ難民救済コンサートが開催される。

ポール・マッカートニー&ウイングス結成。

イーグルス結成。

ピンク・フロイド来日。


9月

ソ連の機関紙が権力と戦う民衆歌手としてジョン・レノンを賞賛。

ロキシー・ミュージック活動開始。

レッド・ツェッペリン来日。


10月

オールマン・ブラザーズ・バンドのギタリスト、デュアン・オールマンがオートバイ事故により他界。

11月

マーヴィン・ゲイが社会的メッセージを込めた『ホワッツ・ゴイン・オン』を発表。

12月

ジョン・レノンとオノ・ヨーコが「戦争は終わった;HAPPY CRISTMAS」を発表。

エレクトリック・ライト・オーケストラデビュー。

SANTANA/CARAVANSERAI
前作までラテンのリズムを前面に押し出した作品を発表していたサンタナが、インストを中心にした官能的で幻想的な音楽を追及した大傑作。プログレ・バンドも真っ青になるようなすばらしい世界が広がっています。
YES/FRAGILE
イエス=ロジャー・ディーンを決定づける要因となったアルバム。各メンバーをフィーチャーした楽曲とR.ウェイクマンの加入なくしては完成しなかったであろう名曲「Roundabout」「Heart of the sunrise」の大作で構成されており、非常に聴きやすいイエスの入門書的なアルバムです。
JOHN LENNON/IMAGINE
前作『ジョンの魂』では、赤裸々とも言えるほどに自己の内面をさらけ出し、センセーショナルな話題をまいたジョンですが、本作では平和的な楽曲、詩をメインにし落ち着きのある理想的な世界を描き出しています。自宅でのリラックスしたレコーディングの成果が出ています。
自分たちのレーベルから発表された記念すべき第一弾のアルバム。多彩なロックを聴かせてくれていますが、グラム・パーソンズとの交流から生まれた曲など、当時のストーンズが貪欲にいろんなジャンルの音楽を取り入れようとしていたことがうかがえるアルバムです。アンディ・ウォーホールによるジッパー付きのジャケットも話題になりました。
LED ZEPPELIN/4
ロックの歴史的な名曲である「天国への階段」を含む名盤です。静と動が調和した楽曲群は、ハード・ロックからの更なる進歩を目指したプログレッシヴと呼べるアルバムです。4人のメンバーのシンボルマーク4個がアルバムのタイトルというのも神秘的で、このアルバムの内容を象徴しています。
THE WHO/WHO'S NEXT
『トミー』に続く第2弾『ライフハウス』の制作が中断してしまい、その中から選曲されて発表されたアルバムです。それでもアルバムの出来は、WHOの作品の中でもトップクラスなのです。デラックス・エディションも発売され、そのコンセプトの全容が、次第に明らかになろうとしています。
CARAVAN/IN THE LAND OF GREY AND PINK
カンタベリー派の中心的なバンド。ジャケットの世界がそのままイメージできる牧歌的なメロディーのトロンボーンの演奏から始まります。ジャケットの国の人々?が平和に暮らしているのが連想できます。心地よい緊張感があるアルバムです。B面のすべてで展開される23分に及ぶ「9フィートのアンダーグラウンド」は、名演です。
E.L.&P./TARKUS
どちらかといえば激しいキーボードを前面に出した感のあったデビュー作に対し、この第2作では各メンバーの力量が十分発揮されているアルバムです。架空の怪物「タルカス」を組曲仕立てで表現した大作を中心に構成されたこのアルバムにおける各メンバーのソロの応酬は壮絶なものがあります。
OSIBISA/OSIBISA
来るべきクロスオーバー・ブームを予感させるようなアフリカン・ロックの傑作です。プロデューサーはトニー・ヴィスコンティ、カヴァー・アートはロジャー・ディーンという70年代前期における最強タッグの作品であることからもわかるようにレコード会社の力の入れようが違います。
GILBERT O'SULLIVAN/HIMSELF
ギルバート・オサリバンのデビュー作です。特徴的なファッションだけでなく、素朴ですが独創的なメロディー、独特の声が、聴き手を引きつけて話しません。爽快感この上ない,やさしい音楽に溢れています。
CRAZY HORSE
イーグルスにも負けない魅力を持ったデビュー・アルバムです。このアルバムが遺作になってしまったダニー・ウィットンのコンポーザーとしての力量が十分に発揮されており、とくに「もう話したくない」は涙なくしては聴けません。
J.J. CALE/NATURALLY
自分の好きな人たちとのんびり作ったアルバムです。クラプトンもあこがれたという人。74年にクラプトンが発表する『461オーシャン・・・』に少なからず影響を与えているのがわかります。レイド・バックしまくりの心地よい曲が並んでいます。名曲「アフター・ミッドナイト」を含む。
CHASE/CHASE
若干遅れてやってきたブラス・ロック・バンドのデビュー作です。4本のトランペットを前面に押し出しての楽曲は、迫力満点の仕上がりです。大ヒットした「黒い炎」は言うに及ばず、B面すべてを使用した緊張感のある組曲「炎の流れ」には圧倒されてしまいます。
HOUND DOG TAYLOR & THE HOUSEROCKERS
なんと、このデビューアルバムは、テイラーが54歳のときに発表されました。テイラーを世に出すために設立されたといっても過言ではないアリゲーター・レコードの第一弾です。歪みまくった音を出すスライド奏法は、ブルースを超えたハードなロックをあなたに提供してくれます。日本盤があること自体奇跡的です。
FREE/FREE LIVE
まだまだ二十歳過ぎなのに、どっしりと落ち着いた熱いブルースを聴かせてくれます。ポール・コゾフの図太いギター、アンディー・フレイザーのベース・ライン、歌唱力のあるポール・ロジャースが最高のパフォーマンスを繰り広げます。
BRUCE COCKBURN/HIGH WINDS WHITE SKY
雪の降り積もった公園に一人佇むブルース・コバーン。このジャケットそのままの音が入っています。アコースティックギター一本をバックに唄われる珠玉の名曲たち。静かな雪の朝、聞こえるのは自分の足が雪を踏みしめる音だけ、そんな心落ち着くアルバムです。
URIAH HEEP/LOOK AT TOURSELF
大ブレイクするきっかけになった「対自核」を含むアルバムです。デビッド・バイロンのヴォーカル、ミック・ボックスのギター、ケン・ヘンズレーのキーボード、すばらしいコーラス・ワークなど素敵なバンド・アンサンブルを聴かせてくれます。
T.REX/ELECTRIC WARRIOR
グラム・ロックを一躍スターダムにのし上げた作品です。短調ではありますが、カッティングによる魅力的なギターが特徴のボラン・ブギーは唯一無二。フォロワーさえも生まれない独創性とキャッチーな曲は、いつ聴いても古臭さを感じません。
JANIS JOPLIN
ジャニス最後の録音です。完成には至らず、「生きながら・・・」は、ジャニスのヴォーカルが録音されないままアルバムに収録されています。やっとの思いですばらしいバック・メンバーが見つかったというのに、悲しすぎます。一曲目の「Move Over」から、活き活きとしたジャニスの歌が聴けます。
JONNY WINTER AND/LIVE
大ロックンロール大会のライブ作品。ブルースの基本であるアドリブの凄さや、ブルースを歌うために生まれてきたような独特の声、ヒット曲なんて関係ない自分の好きな曲を好きなように演奏する、すべてがジョニーの凄さを証明することになるんです。
ALLMAN BROTHERS BAND/AT FILLMORE EAST
デュアン・オールマンのスライド・ギターが堪能できる前半とインプロヴィゼーションによる曲の展開が凄い後半のそれぞれの楽しみ方がある歴史的名盤。サザン・ロック・ブームの火付け役になったアルバムです。現在は、完全版が発売されていますのでライヴの全容を感じ取ることができます。
CAROL KING/TAPESTRY
ソロデビューの第二弾。ベトナム戦争などの影響で目標を失いつつあるアメリカの若者をやさしく包むようなやさしい曲が満載です。ジェームス・テイラーとともにシンガーソングライター・ブームの火付け役を果たしたこのアルバムは、5年間に亘りチャートにとどまり1千万枚以上の売上を上げました。
DOORS/L.A.WOMAN
この年の7月に他界したジム・モリソンが参加した最後の作品となってしまったアルバムです。ブルース調の曲が主体になっていますが、どこか侘しげなモリソンの声が気になります。ドアーズとしての最高作ではありませんが、60年代から引きずってきたロックの幻影は、この作品とともに消えたのです。
CAN/TAGOMAGO
ジャーマン・ロックを代表する変人軍団の作品。現代音楽のシュトックハウゼンの弟子二人が結成したバンドで、日本人ダモ鈴木が参加。表現の仕様のない音楽は、聴くしかないのです。しかもアナログは2枚組みでした。ジャケット同様に脳の中に渦ができます。
FAUST/FAUST
透明のカヴァーに透明のレコード盤、聴く前から見ただけでも印象的なアルバムです。ジャーマン・ロックの異端児と呼ばれていますが、その独創性とアイデア満載の音楽は、妙な魅力を持っています。セカンドは、一転して真っ黒なジャケットでした。
STRAWBS/THE WITCHWOOD
リック・ウェイクマン在籍最後の作品で、日本におけるデビュー作です。このバンドの持ち味であるブリティッシュ・トラッドをベースとした曲に、クラシカルなウェイクマンのキーボード群が素敵な味付けをしています。他人の曲も入ってますが、まとまりのあるアルバムです。
DAVID BOWIE/THE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST
T.REXとともにグラムロックの頂点を極めたボウイの初期の代表作で、火星からやってきたジギー・スターダストを主人公としたコンセプトアルバム。ミック・ロンソンを中心にしたバック・バンドの名前もスパイダー・フロム・マーズと徹底しています。
MARVIN GAYE/WHAT'S GOING ON
タイトルからもわかるように、泥沼化するベトナム戦争の中で自分たちの未来に対する気持ちや不安を表現した問題作。女性に絶大な人気を誇っていたため会社は発売を渋りますが、この作品の発表により名実ともにアメリカを代表するアーティストになりました。その後の悲惨な運命を考えると目頭が熱くなります。
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