WEEKLY PICKUP  041 TOM WAITS
WEEKLY PICKUPは、70年代を中心にしたロックの埋もれそうな名盤・迷盤を紹介しています
CLOSING TIME (1973)


  1. OL'55
  2. I HOPE THAT I DON'T FALL IN LOVE WITH YOU
  3. VIRGINIA AVENUE
  4. OLD SHOES
  5. MIDNIGHT LULLABY
  6. MARTHA
  7. ROSIE
  8. LONELY
  9. ICE CREAM MAN
  10. LITTLE TRIP TO HEAVEN
  11. GRAPEFRUIT MOON
  12. CLOSING TIME
PRODUCE : JERRY YESTER
"酔いどれ詩人"トム・ウェイツのデビュー作、はっきり言って、泣けるアルバムです。吸殻がこぼれ落ちている灰皿に飲みかけのバーボン(だと思うんですが)が置かれたアップライトのピアノ。それを照らし出すブルーのシェードの被せられたライト。すべてが、トム・ウェイツの印象付けに一役買っています。アルバムごとにジャジーで重たくなっていくトムですが、この作品には重たさはほとんどなく、どちらかというとこれからデビューを目指す若者がパブの片隅で一心に歌っているといったすがすがしささえ感じます。

ウエスト・コーストを代表するアサイラムからのデビュー作なのですが、ウエスト・コーストの匂いが感じられないジャジーで気だるい雰囲気の曲なども並んでいます。この後の作品では、そういう曲が増えていくのですが、この作品ではシンガーソングライターとしてフォーク、カントリーをベースにした曲が中心になっています。このアルバムの収録曲「オール55」が、1974年にイーグルスのサード・アルバム『オン・ザ・ボーダー』でカヴァーされたことで日本でも注目を浴びます。

その「オール55」からアルバムは始まりますが、星の瞬きが薄れ朝日が昇ってくる夜明けの曲でありながら、まるでドラマの最終章を飾るかのような強い印象が残ります。イーグルスのファースト、セカンドのアルバムを踏襲しているかのようなカントリー・ロック・バラードの名曲です。この一曲でも涙するには十分なのですが、恋愛を歌ったギターの弾き語りの2曲目で、さらに涙が・・・・・・。歌詞にも注目の作品です。続く3曲目は、気だるいコルネット(だと思うのですが、トランペット?)が印象的なピアノの弾き語りによるジャジーな作品。4曲目は、少々重ためのリズムが彼らしいカントリータッチの曲です。5曲目は、またまたジャジーな曲で、語るように歌うトムが、ジャケットの中から飛び出してきた感じです。6曲目と7曲目は女性の名前が着いた作品でどちらもカントリーをベースにしたとても美しい曲ですが、前者は落ち込んだ彼女を諭しているような語り口調で歌われ、後者はやさしさで包み込むような歌い方がとても印象的です。8曲目は、詩の朗読を聴いているような叙情的なピアノの弾き語りの作品です。断ち切れぬ思いがひしひしと伝わってきます。9曲目は、このアルバムの中で唯一R&B色の濃いロック調のアップテンポな作品です。ちょっと一息といった感じで、アルバムの中で良いアクセントになっていますし、オルゴール調の終わり方も洒落ています。10曲目は、ライトな感じのジャズ・ヴォーカル。11曲目は、やさしいピアノとストリングスの効果によって淡い色彩の美しい世界が広がります。そして、このドラマは、美しいインスト曲で締めくくられます。

最後をインスト曲で締めくくるという構成に、通常のシンガーソングライターではない非凡な才能が見て取れますし、ロック世代でありながら、主としてジャズやカントリーに影響を受けて育ってきたのではないかという勝手な創造が頭に浮かんできます。十代からピザ屋で働いたりした経験の中で垣間見た男女の関係なども曲作りや歌詞のベースになっているのではないでしょうか。そうした夜行性の生活がトムに与えた影響により独特の世界観が育ったのでしょうね。

落ち込んだときに元気を与えてくれる作品ではありませんが、こういう人生も「ま、いいんじゃない」という安心感を与えてくれる作品です。