ROCK STANDARD  066 CHICK COREA
ROCK STANDARDは、70年代を中心にロックに変革をもたらした名盤・迷盤を紹介しています
RETURN TO FOREVER (1972)



  1. Return to Forever
  2. Crystal Silence
  3. What Game Shall We Play Today?
  4. Sometime Ago/La Fiesta
  • CHICK COREA : ELECTRIC PIANO
  • STALEY CLARKE : DOUBLE BASS, ELECTRIC BASS
  • AIRTO MOREIRA : DRUMS
  • JOE FARRELL : FLUTE, SAXOPHONE
  • FLORA PURIM : VOCALS, PERCUSSION
PRODUCER : MANFRED EICHER
 今回は、前回のジェフ・ベック繋がり(強引ですが)ということでクロスオーバーというよりジャズの名盤として有名な作品の御紹介です。1968年にハービー・ハンコックの後任キーボード奏者としてマイルス・デイヴィス・グループに加入したチック・コリアは、マイルスのエレクトリック・ジャズ路線を追求した革新的なアルバム『IN A SILENT WAY』、『BITCHES BREW』で見事なエレクトリック・ピアノ(フェンダー・ローズ)を披露します。次第にアバンギャルドな方向へと進むチック・コリアは、1970年にマイルスのグループを脱退し、同じメンバーだったベース奏者のデイヴ・ホランドなどとフリー・ジャズ系のバンドCIRCLEを結成しますが、商業的な成功を得ることなく、また精神論的な挫折もあり解散してしまいます。

 CIRCLEの挫折の甲斐あって(?)、もっとわかりやすいジャズを目指したチック・コリアは、ベースにスタンリー・クラーク、フルートとサックスにジョー・ファレル、ドラムスにアイアート・モレイラ、ヴォーカルとパーカッションにフローラ・ピュリムという布陣で再出発します。そのデビュー作品が、今回ご紹介するアルバムなのです。まだ、バンド名義ではなくチック・コリアのソロ作品というスタイルはとっていますが、バンドのデビュー作といっても間違いではないでしょう。作品は、幻想的なエレクトリック・ピアノが堪能できるタイトル曲(とくに前半)をはじめとして歯切れの良いリズミカルな作品がジャケットのイメージどおり展開されていきます。アイアート・モレイラとフローラ・ピュリムというブラジリアン系の人間が二人もいるせいかラテン色も強く感じます。

 私がこの作品を知ったのは、ロック雑誌の『ミュージック・ライフ』だったと記憶しています。当時は、『スイング・ジャーナル』も本屋で立ち読みしていましたので間違いかもしれません。実家まで戻って押入れの中にあるであろう当時の『ミュージック・ライフ』を探す余裕がありませんのでご容赦ください。ハード・ロックやプログレッシヴ・ロックが全盛期の時代にジャズのレコードを買うのは大冒険(小遣いが少ないため後悔があってはならない)でしたが、微妙だったタイトル曲も半分近くになってからのS.クラークのベースに惚れ込み御購入のはこびとなったのです。

 そのS.クラークに魅せられたタイトル曲でアルバムは幕を開けます。幻想的なエレクトリック・ピアノと風のようなフルートの調べが印象的な前半部とスピーディーでフリーキーな後半部からなる素晴らしい作品です。前半後半を通してのF.ピュリムのアバンギャルドなヴォーカルも必聴です。エレクトリック・ピアノとフルートを中心に展開される2曲目は、浮遊感漂うエレピとアンニュイなサックスが何とも言えない癒しの空間を創ってくれます。題名どおりのクリスタルな世界です。F.ピュリムのヴォーカルをフィーチャーした3曲目は、軽いタッチのノリの良いポップな作品です。メンバーのリラックスした雰囲気が十分に伝わってすがすがしい気持ちになれるのです。

 B面全てを費やした4曲目。前半は、RTFの真骨頂ともいうべきフリー・ジャズの作品です。フリー・ジャズというとアナーキーな感じを持たれる方もいらっしゃると思いますが、まったく違って随所に美しいメロディを入れ込んで粛々と展開していく様は、身体や心の穢れを一掃してくれる古い名刹を訪れているような感じさえします。後半は、ラテン・テイストに溢れるメロディアスな展開で素晴らしいアンサンブルが堪能できます。最後は、ジャズを好きではない方でも楽しめるナベサダ風の展開になりますので、さまざまなジャンルのジャズを、この一枚で楽しめるという点でも聴く価値ありの作品です。とにもかくにもC.コリアのエレピのうまさと素晴らしいアンサンブルを堪能しましょう。ジャズ畑には詳しくない私ですが、これだけの表情を出せるのは、C.コリア以外にはなかなかいないのではないでしょうか。

 最後に、ジャケットの話を少し。このアルバムの紹介文では、飛翔中の鳥の写真を使用した素晴らしいジャケットのことが良く書いてありますが、そのほとんどが飛んでいる鳥をカモメと勘違いされているようです。どう見てもカモメではないのですが、イメージが先行しているのでしょう。私も鳥について詳しくはないのですが、長い翼や尖った嘴に飛行中のまとまった尾羽(ホバリング中は広がります)を見るとカツオドリという種類の鳥ではないかと思います。詳しい方がいらっしゃいましたらゲスト・ブックに書き込みをお願いします。 

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